山陽Letter
【山陽レザー】#006 アーマー(グローブひも用革) ~「切れない革」を目指して
革の世界
山陽の読み物(NOTE)をご覧いただき、ありがとうございます。
今回は、「革と熱の関係」と題して、数回にわたりお話ししていこうと思います。
この話題を取り上げようと思ったのは、シンプルに「革は何度まで熱を加えても大丈夫なのだろうか?」という疑問を持った事がきっかけです。
革でモノづくりをされる方であれば、「革に熱を加えるのは良くないと聞いている」「なんとなく革が劣化してしまうのではないか」と思われることがあるのではないでしょうか。
こういった点について、タンナー(製革業者)としての経験も踏まえつつ考えていきます。
まず、タンナーが革を製造する過程において熱をかける工程はいくつかあります。
1)乾燥工程
革の染色(内部の色をつける)工程を終えた後、乾燥の工程で熱をかけて乾燥させる場合があります。
以下の写真にあるような真空乾燥工程では、約60℃に設定された鉄板に5分程度圧着し、革を乾燥させます。(実際の温度はそれよりも若干さがります)
また、革を約60℃の温風に15分程度あてて乾燥させる温風乾燥を行う場合もあります。
いずれも60℃程度の熱をかけることで乾燥を行っていきます。
2)艶出し・アイロン工程
革の製作が終盤になった段階で、表面の艶や革の平滑性を高める為に、以下のようなアイロンやプレス機を使って加工を行います。
その際、圧力と熱が加わるのですが、その時の設定温度は約80℃~100℃です。
3)型押し(エンボス加工)
革に型を押して凹凸を加えていく「型押し(エンボス加工)」においても、熱を加えて処理を行います。
このように、絶対に「革に熱を加えてはいけない」という事はありません。
しかし、熱を加える際の「状態」と「温度」には注意が必要であることも事実です。
これまでにも書きました革への加熱温度は、100℃以下になっています。これは、革の主成分が「タンパク質」であることに関係があります。タンパク質は通常、60℃以上の熱を加え続けると「熱変性」という変化が起こります。タンパク質内部のアミノ酸の立体構造が熱により変化するというものです。例えば、卵白に熱を加えると白く・固くなるというのも熱変性によるものです。
革の場合、「鞣し」という工程を経ているため、純粋なタンパク質よりも耐熱性は高くなっていますが、もとになったタンパク質の性質は引き継がれています。
特定非営利活動法人 日本皮革技術協会においても「湿潤状態の耐熱温度は、一般的にクロム鞣し革は77~120℃、植物タンニン革は70~89℃」と記載されています。
なお、乾燥状態の革では、耐熱温度はこちらよりも上がります。
※詳細は、特定非営利活動法人 日本皮革技術協会 WEBサイト「皮革の知識」をご覧ください。
このように、一定の条件を考慮しながら革に熱を加えていくことはできそうです。
私自身も本革のカバンを製作した際、「ハリ感」を出すために革の裏面にアイロンをかけて接着芯(熱でつけることができる布材)を付けたことがあります。また靴を製作する過程で熱をかけて芯材と革とを接着するといった工法もとられます。
条件を考慮した上で、革に熱を加えられるという事を知っておくのは、革を使った製作において有効かと思います。
ただし、このレベルを超えた熱をかけてしまうと革においても変性が進んでしまいます。
次は、加熱が進んだ場合の革の変性についてご紹介したいと思います。
本日はここまで。
また次回に。
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