山陽Letter
【山陽レザー】#006 アーマー(グローブひも用革) ~「切れない革」を目指して
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山陽の読み物(NOTE)をご覧いただき、ありがとうございます。
みなさんの身近に「山陽レザー」では、山陽の革が使われている商品をシリーズでご紹介しています。
今回は、革専門のアパレルブランド&レザーテーラー No,No,Yes!様にて製作されたレザージャケット「ルイ・アームストロング」をご紹介します。
はじめにNo,No,Yes!(ノーノーイエス株式会社)様についてご紹介しましょう。
No,No,Yes!様は、2007年に橋本 太一郎氏によって立ち上げられ、以来、ジャパンレザーを使用した高品質のファッションアイテムを作り続けているブランドです。
そのルーツは、高校生時代の橋本氏が同級生だった河村真氏と音楽や映像、アート作品などを一緒に作り楽しんでいたところまで遡ります。高校卒業後、橋本氏はファッションの、河村氏はグラフィック・デザインの道に進み、研鑽を積まれました。そして、再び二人の感性が重なり、レザーのテーラリングを研究し、レザーの新しい可能性を追求し続けるブランドとして融合したのがNo,No,Yes!です。
創業後、ジャパンレザーアワード、MIPELパノラマアワード、TOKYO新人デザイナーファッション大賞グランプリなど多数の賞を受けられるとともに、製品はニューヨーク近代美術館MoMAやH.LORENZO、レクレルールをはじめ海外50店舗、国内100店舗以上で取り扱われています。また、ニューヨークファッションウィークBOX、パリ装飾美術館や金沢21世紀美術館でのインスタレーションや米グラミー賞常連ミュージシャンや国内外有名アーティストのステージ衣装を手掛けるなど、芸術・芸能の方面でも貢献されています。
さて、今回ご紹介するレザージャケット「ルイ・アームストロング」ですが、ビスポーク商品として開発されたものです。デザイナーの感性が最大限に生かされたデザインをベースにお客様との対話やフィッティングなどを経て完成し、お客様の手元に届きます。(※)
この「ルイ・アームストロング」では、素材についても強いこだわりを持って作られています。
「身頃(みごろ)」に使用されている素材が、山陽のアーティスト・レザー シリーズの一つ「ウォーホール」です。ヴィヴィッドなパープル、生体時の傷、痛みやトラジワを隠すことなく、その上で大胆なムラ染めで仕上げた独自性を追究したレザーです。
さらに腕部分にはパイソン革を、そして裏地には、ヒョウ柄の生地をあしらうといった、他では類を見ないOnly Oneな逸品です。
ジャケットの身頃部分に使われている革は、これまで「タブー」とされてきた技法から作り出されたレザーです。
この革の特徴的なムラ感は、革を均一に染めることを目的とする「染色タイコ」と呼ばれる革の染色設備で、「あえてムラに染める」という手法で作られました。
その為に、「やってはいけない事」をあえて行い、試行錯誤を重ね作られたのです。例えばタイコの中では、通常は染料がしっかり動くような温度・pH値を維持するように調整するのですが、今回は、逆に動きにくいように設定し、さらに革そのものに染料を直接掛け、回転数についても必要最小限に絞りました。
この開発にたずさわったのが、40年以上、山陽の染色を支えてきた橋本です。彼自身この革の生産を「遊び心」と語っています。そして「納得がいくモノができるには、偶然性も必要」とも言っており、自身の努力だけではコントロールしきれない『即興性』も受け入れる「境地」を感じることができます。奇しくも、このアーティスト・レザー シリーズは橋本にとって山陽での最後の開発作品の一つとなりました。
尚、このアーティスト・レザー シリーズの一つである「雪舟」は、第106回 東京レザーフェア 極めのいち素材 コンテストにて第一位を獲得しました。(詳しくはこちら(【結果発表】第106回 東京レザーフェア「極めのいち素材」の投票結果)へ)
「ルイ・アームストロング」には、アーティスト・レザー以外にパイソン革、ヒョウ柄生地といった、ともすれば「喧嘩をしてしまいそうな」異素材が大胆に使われています。
しかし、全体を見たとき、不思議と「異様さ」は感じません。なぜなのでしょうか?
おそらくは、「高度なファッション技法」と「全体に流れるテーマ」があるからではないかと私自身は感じています。
「高度なファッション技法」という点では、「赤みがかったパープル」と「ベージュ」という色の取り合わせはダイアード配色(補色)を基本としながらも、そこから絶妙な『外し』を入れた配色でまとめられていることが見て取れます。また柄については、パイソン柄が前に迫ってくる、主張するパターンであるのに対し、アーティスト・レザーのムラ感は深部にある紋様であり、『対比』を感じます。
裏地に使われているヒョウ柄については、外観の「インパクト」要素を引き継ぎ、『芸術的な均衡』が保たれています。
もう一つの要素、「全体に流れるテーマ」とは、『ジャズ』。
『ジャズ』は、既成概念にとらわれず「黒人音楽」と「白人音楽」の交わりから生まれた音楽。
作品名である「ルイ・アームストロング」は、もちろんジャズの神様と称される「サッチモ」こと「ルイ・アームストロング」から来ています。
西洋クラシック音楽とは違った「オフビート」のリズム感、その場で生み出される「即興性」、どんなテーマ(音楽のモチーフ)をも取り込む懐の深さ・・・「なんだっていいさ!グルーヴすれば、 ALL OK !」、そんな空気感が全体をまとめ上げているのではないでしょうか。
もう一つ見て頂きたいのが、ディテールです。
こちらの作品には、細部にわたって工夫が凝らされています。
まず注目頂きたいのが、「ステッチ」。レインボー・グラデーションの糸を使用しています。加えてファスナーには、YKKの最高級品 エクセラの特別仕様レインボー色を使用されています。
続いてフォルムに目を向けると、通常のレザージャケットには不釣り合いな「大きな立体ポケット」があり、身頃も前身頃に比べて後身頃が極端に短くなっています。
これはデザインをされた橋本 太一郎氏が考える「多様性」の表れだと言われています。
様々な形や色を取り入れることで、「他人と違っている事にこそ価値がある」というメッセージを伝えようとされているのではないでしょうか。
先にお話しした「ジャズ」のテーマを受けて、さらに解像度を上げた具体的な「形」なのでしょう。
最後に、橋本 太一郎氏は、このレザージャケットをルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」を思い描きながらデザインされたそうです。
「What a Wonderful World」は、以下のような歌詞で締めくくられます。
「赤ちゃんの泣き声が聞こえる / これから大きくなって / 多くのことを学ぶだろう / 僕が学んできたこと以上のことを /そして一人こう思う / 何て素晴らしい世界だろう」
I hear babies cry
I watch them grow
They’ll learn much more
Than I’II ever know
And I think to myself
What a wonderful world
私たちが今、つくっているものは次の世代に受け継がれていく。私たちの思いも乗せて。だから『Bestを尽している、今』は、悲観すべきではない素晴らしい世界なのだと。
本日は、ここまで
また次回に。
(※)レザージャケット「ルイ・アームストロング」は、ビスポーク商品の為、オーダーを受けてからの製作となります。
今回ご紹介したレザージャケットの場合 ・・ 参考価格:330,000円(税込)
・No,No,Yes!公式サイト https://www.nonoyes.co.jp/
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