山陽Letter
“本物” について考えてみる ~本革と言われるのはなぜ?
革の世界
今回の山陽の読み物(NOTE)では、合成タンニンについて取り上げます。
現代の革づくりでは、様々な用途で使われ必要不可欠とも言える重要な材料でありながら、一般的に注目されにくい「縁の下の力持ち」「名バイプレーヤー」について、これを機にぜひ知ってください。
合成タンニンは、『合タン』や『合成鞣剤<じゅうざい>』、『シンタン』とも呼ばれます。
※シンタンという呼び名は、合成タンニンの英語名「Synthetic Tannin(シンセティック・タンニン)」を縮めたもので、なめし業務に直接従事する方が使われることが比較的多いです。『シンタン』という言葉を知っていると、玄人っぽく思われるかもしれません!?
まず合成という事から想像できる通り、合成タンニンは「化合物」を主成分としたものです。
主には芳香族(※)のスルホン酸とホルムアルデヒドの縮合物ですが、近年では脂肪族系や合成樹脂系の物も使われるようになってきています。(※)ベンゼン環を持つ化学物質の分類
少し難しいお話が続きましたが、人の手で化学的に作り上げられたものという点で、植物タンニンや鉱物由来であるクロムと大きく異なります。
それでは、いつ頃、どこで、なぜ、合成タンニンは開発されたのでしょうか?
合成タンニンが最初に開発されたのは、1805年、ハッチェット氏(Ch. Hatchett)が石炭や木炭、コールタールを蒸留し残った物などから人工鞣材であったと言われています。しかしその後の進展がなく、一般に使えるようになるには進化が必要でした。工業的な一歩としては1912年 にドイツのスティアスニ氏(E. Stiasny)により芳香族のスルホン酸とホルムアルデヒドの縮合物を製造しています。(先ほどご紹介したものですね)こちらはドイツの会社から商品名ネラドールD(Neradol D)として販売されました。
19世紀から20世紀初頭にかけて開発が進んだのは、欧米列強をはじめとした近代化により皮革製品の需要が急激に高まったことが原因ではないかと考えられます。
多くの革製品が必要になった結果、植物タンニンだけではまかないきれず合成タンニンの開発が促されたのではないでしょうか。奇しくもクロム鞣しが開発された時期もちょうどこの頃ですね。
あと近代化に伴い、木材の需要増、森林の減少などから植物タンニンの原料である樹木も減少したことも合成タンニンの開発を後押ししたようです。
このように生まれた合成タンニンですが、もともとの目的は植物タンニンの代用材という位置づけでした。つまり植物タンニンの代わりに鞣し剤として使われています。
しかし合成タンニンのお話はこれだけでは終わりません。副次的な成果があったのです。
合成タンニンは、クリーム色の物が多いのですが、白い色の合成タンニンが開発されたことにより、人工的な手法で「白い革」を作ることが出来るようになりました。
植物タンニンなめしの革の大きな特徴の一つに日光にあたることによる変化があります。いわゆるエイジングや経年変化というもので使用感を楽しむことができるのですが、物によっては色を変えたくない、特に白い色を保ちたい場合もあります。合成タンニンでは耐光性を持つものがあり、色褪せにくい革の生産に使われています。
最初にクロムで鞣してから2回目にタンニンで鞣すコンビネーション鞣しを行う場合、革表面がプラス、マイナスいずれに帯電するのかに気を配る必要があります。
というのは、クロムでは表面がプラスに植物タンニンではマイナスに帯電する傾向があります。プラスに帯電したクロム鞣し革に対して、植物タンニンのみを入れてしまうと均一に革に入り込まずムラになってしまう場合があります。そこで緩やかにマイナスへ移行させる役割を持った合成タンニンも合わせて使う事で均一性が高いコンビネーション鞣し革を生産することが出来るようになります。
こちら以外にも、最近では『均一な染色を促す合成タンニン』、『革の風合いを良くする合成タンニン』など多種多様な用途に使われるようになっています。
今、私たちがいろいろな革を楽しめるのは、合成タンニンの発展に係る部分も大きいのです。
今回は、クロムとタンニンという2大鞣し剤の間で、注目されることが少なかった合成タンニンにスポットをあててみました。
奥深い合成タンニンの世界を少しでも感じて頂けましたら嬉しいです。
それでは、本日はここまで。
また次回に。
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