山陽Letter
【山陽レザー】#005 サバナオイル/サバナワックス
山陽Letter
みなさんこんにちは。今回はTAANNERRのプロジェクトメンバーの一人が抱えている熱い思いをつづったメッセージをご紹介します。
私は、TAANNERRのプロジェクトメンバーとして、ブランド製作に関わってきた。1年以上かけて、やっと発売することができたが、私はこのプロジェクトが始まる少し前からひそかに夢を抱えていた。
20代の前半、私は革製品どころか洋服にさえ、それほど興味を持っていなかった。唯一の趣味だったバンドの追っかけでライブハウスに入り浸り、着るものはたいていバンドのグッズTシャツだった。移ろい続けるステージからひと時も目を離さなかった。満ち足りた日々だった。
そんな音楽漬けの毎日を送っていたある日、友人たちの何気ない会話が耳に入った。
『君は、良いものを良いものと分かって着ていて素敵だね』
私はその、友人が放った何気ない言葉にひどく心を打たれた。それは、私自身に向けられた言葉ではなかったけれど、“この世の真理なのではないだろうか”とさえ思った。物が作られた背景を知り、それに共感し、丁寧に扱う。シンプルで純粋な思い。
今まで私は身に着けるものを大切にしていただろうか。言葉、時間、他人に対してさえ、いい加減だったのではないだろうか。自問自答を繰り返し、私という人間の人格が塗り替えられていった。
言葉を大切にし、時間を有限のものと考え、洋服を好きになった。読書を始め、言葉を紡ぐ楽しさを覚えた。大切な人によく手紙を書くようになった。お気に入りの服屋を見つけ、定期的に通うようになった。
革を好きになったのは、この少しあとだった。
いつものようにお気に入りの服屋に行き新作の服を眺めていると、茶色いプレーントゥの革靴に目が留まった。衝撃的な出会いだった。時が止まって見えた。あるいはその靴が輝いて見えた。
それは、コードバンという馬の臀部の革を使って作られたと後から知った。正直、その時に何か説明されていたことは覚えているが、内容なんて全く頭に入ってこなかった。それほどの衝撃、高揚、幸福だった。革という素材は、磨けば磨くほど輝き、使い込むほどに世界に一つだけのものになっていく。私は、その変わり続ける、という特性を好きになった。変わらない美しさより、変化し、その時々で最高の輝きを放つ物のほうが私は好きだった。
それから数年後、私は山陽に入社した。
慣れない匂いや力仕事、聞いたことのない薬品の名称と効能。覚えることがたくさんあり、怒涛の日々が過ぎ去っていった。それでも、革が好き、たったそれだけで毎日が楽しかった。
日々の仕事にも慣れてきたころ、こんなような夢を漠然と抱くようになった。
“私が昔抱いたような、あの衝撃と幸福感を、革を通して、一人でも多くの人に届けたい”
それは、私のエゴかもしれないが、もしそんなことができたら、こんなに素晴らしいことはないだろう。
そして、タイミングを見計らったように、社長から声がかかった。
「新しい事業として、山陽ブランドを作ろうと思っている。君もそのメンバーのひとりとして参加してもらいたい。」
こんなチャンスはないと、私はふたつ返事で承諾した。
このプロジェクトは、今まで革という素材を作ってきた山陽が、最終製品を作るというもの。それは、想像以上に険しい道だった。誰に向けて何を作る、どんな革をつかって、そしてそれはだれが作る。課題は山積みだった。
デザインを任されたときは、今までの人生で一番と言っていいほど、物と向き合った。コンセプトに沿ったうえで、自分の手で持つところを想像してわくわくするようなデザインを突き詰めた。苦しくて何度も吐きそうになったけど、それでも楽しかった。きっと、私が今日まで頑張ってこられたのは、友人のあの一言をきっかけに私自身が変われたから。夢を持てたから。
たくさんの人の力を借りて、支えられてできた、TAANNERR。山陽のいままでと、私の思いがたっぷり詰まったブランド。とてもいいものができたから、たくさんの人に届いてほしい。
最後に、今回TAANNERRの製作に力を貸してくれた方々へ感謝の気持ちでいっぱいです。ほんとうに、ありがとうございました。最後まで読んでくださった、あなたも、ありがとうございました。
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