山陽Letter
【山陽レザー】#006 アーマー(グローブひも用革) ~「切れない革」を目指して
革の世界
今回は、エナメルレザーを取り上げてみたいと思います。
「エナメルレザー」「エナメル」という言葉、皆さんもよく聞かれると思います。実物を目にする機会も多いのではないでしょうか。
まず「エナメル」という言葉の意味なのですが、日本語では「琺瑯(ほうろう)」の事を指します。琺瑯は、金属(鉄・アルミニウムなど)の表面にガラス質の釉薬(うわぐすり)を焼き付けたものです。とするとエナメルレザーは革の表面に釉薬をぬったもの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この点は少し異なります。エナメルレザーに使われているのは、水性のポリウレタンか溶剤系のポリウレタンです。ポリウレタン(略名ではPU)は、ウレタンゴムとも呼ばれるプラスチックに分類される素材です。しかし身の回りにある硬質のプラスチックとは異なり、ゴムのように柔らかくて引張り強度や耐摩耗性、弾性、耐油性に優れています。このような特性を生かして革にも使われているというわけですね。
またエナメルレザーという言葉は日本の通称のようで、海外では「パテントレザー」と呼ばれています。1800年代にアメリカの皮革製造業者がエナメル素材を開発し、特許(パテント:Patent)を取得したことに由来してします。
エナメルレザーの素材を知って頂いたところで、エナメルレザーの魅力と注意点です。
その魅力は、ピカッと光る光沢感ですね。この光沢感からフォーマルな場面に相性がいいです。例えば、フォーマルドレスやタキシードにエナメルレザーの靴というのは、とても調和がとれるコーディネートです。実は一説には、昔の舞踏会で相手のドレスの裾を靴墨で汚さないためにエナメルレザーの靴が履かれるようになったというお話があります。
ということでエレガントな雰囲気を出したい場合には欠かす事の出来ない素材です。
エナメルレザーの注意点は、革に化学素材であるポリウレタン樹脂を塗っていることに起因するのですが、折れ目にあたるところに「シワ・ヒビ割れ」が入ります。靴の履きジワなどです。加えて夏の暑さでは表面が溶け出してしまったり、冬の寒さで割れてしまったりと適度な温度湿度のところで保管してあげる必要があります。あと一般的な革と異なるのですが、一度表面にダメージや傷、色剥げが起こってしまった場合には直す方法がありません。(銀付き革などでは、補色やクリームなどでケアするとある程度の補修が出来るのですが)
最後にタンナーの目で見たエナメルレザーについて少しお話しさせていただきます。
エナメルレザーは、表面をポリウレタン樹脂で覆うようにして作られますので、表面に傷や痛みがある革(等級が低いとされた革)を有効活用することができます。このことは原皮をしっかりと活かしていくというサステナブルという視点からも有効な素材といえます。
製作においては、ウレタン樹脂を均一に塗るというのは技術を要する工程です。しかも複数回塗る必要がありますので、乾燥させる間に空気中のチリなどが付着しないような環境を整えることも必要です。(ウレタン樹脂はしっとりした感触のためチリなどが付着しやすく、取れにくい素材です。)製作にも慎重さと職人技が要求される素材なのです。
今回は、エナメルレザーについてご紹介してきました。銀付き革やヌメ革のように革らしさを感じるという素材ではありませんが、天然の素材と人工の技をハイブリッドし革を有効に使うというサステナブルな素材です。それに何より綺麗な光沢感を持つ革なので、大事に扱って頂ければと思います。
本日はここまで。
また次回に。
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